配偶者短期居住権を司法書士が解説

配偶者が亡くなり、相続人間で争いがある場合、残された配偶者が自宅に住み続けることができるかどうかは大きな問題です。

似たような制度で、配偶者居住権というものもあります。

今回は、配偶者短期居住権について、どういった場合に認められるのか、配偶者居住権との違い、注意すべきポイントなどを、司法書士が解説します。

1.配偶者短期居住権とは

2020年4月1日以降に相続が発生した場合に、認められる権利です。

配偶者短期居住権とは、自宅を所有していた配偶者が亡くなった場合、残された配偶者が一定期間(少なくとも6か月間)は、自宅に住むことができる権利です。

例えば、自宅を所有していた配偶者が遺言により、第三者に自宅を遺贈した場合、この権利がなければ、残された配偶者は、自宅から出ていかねばなりません。転居先の確保や資金の問題もあるので、すぐに出ていくことは難しいはずです。

以前は、このような場合、最高裁の判例法理(最判平成8年12月17日)により「配偶者が、相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合には、原則として、被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたと推認する。」とされていました。使用貸借契約というのは、無償で借りることができる契約のことです。

しかし、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が反対の意思表示をしていた場合には、使用貸借が推認されず、残された配偶者は自宅を出ていかねばなりませんでした。そこで、残された配偶者が一定期間住むことができるように、改正により、配偶者短期居住権が認められるようになりました。

2.配偶者短期居住権はどんな場合に成立する?

配偶者短期居住権の要件は以下のとおりです。

  • 「亡くなった配偶者所有の建物(居住建物)に」
  • 「無償で住んでいた」
  • 「配偶者であること」

です。住んでいた自宅が、亡くなった配偶者所有の建物でなく、そもそも、第三者所有の建物であった場合にはこの権利は発生しません。

また、全て無償である必要はありません。居住建物の一部を無償で使用していた場合には、その部分について、無償で使用する権利が発生します。

法的な配偶者である必要があります。いわゆる内縁や事実婚は該当しません。

それから、当たり前ですが、遺言や遺産分割によって、居住建物を取得した配偶者には、この配偶者短期居住権は発生しません。自分が所有する建物には、住むことができ、必要がないからです。

なお、配偶者短期居住権は、要件を満たしていれば当然に発生しますので、契約や手続きなどは不要です。

3.配偶者短期居住権によっていつまで住める?

配偶者短期居住権は、その名のとおり、短期間で終了します。この点、原則一生続く、配偶者居住権とは違います。

いつまで住めるかは、遺産分割を行う場合と、そうでない場合とで、期間が変わります。

具体的には以下のとおりです。

  • 遺産分割を行う場合・・・遺産分割により居住建物を誰が取得するかを決めた日か、相続開始の日から6か月経過する日のいずれか遅い日まで
  • それ以外の場合・・・居住建物の所有者が、残された配偶者に対し、配偶者短期居住権の消滅の申し入れをした日から6か月を経過する日まで

つまり、残された配偶者は、配偶者が亡くなってから少なくとも、6か月間は自宅に住むことができます。

4.配偶者短期居住権によってできること、しなければならないこと

  • 従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用しなければなりません。例えば、以前は住むためだけに使用していたのに、配偶者が亡くなって、急に店舗に改装したりすることはできません。また、よく注意をして使用しなければなりません。自分のものを使用するような様な注意では足りません。
  • 居住建物の取得者の承諾なく、第三者に居住建物を使用させることはできません。
  • 上記に違反した場合、居住建物の取得者は、配偶者短期居住権を消滅の申し入れをすることができます。
  • 残された配偶者は、居住建物の通常の必要費は負担しなければなりません。

5.配偶者短期居住権の終了

配偶者短期居住権は、以下の場合に終了します。

  • 期間の経過・・・遺産分割により居住建物所得者が決められた日など
  • 残された配偶者の死亡・・・配偶者短期居住権は相続されません。
  • 配偶者が配偶者居住権を取得したとき・・・原則一生住むことができるので配偶者短期居住権は不要になります。
  • 居住建物の全部の滅失その他の事由により、使用することができなくなったとき・・・居住建物が全部滅失した場合、もはや権利として認める必要がないため、消滅します。
  • 居住建物取得者からの配偶者短期居住権の消滅の申し入れ・・・遺言など遺産分割以外で居住建物を取得した場合、居住建物取得者は、配偶者に配偶者短期居住権の消滅を申し入れることができます。この申し入れから6か月経過することにより、配偶者短期居住権は消滅します。
  • 義務違反などによる配偶者短期居住権の消滅の意思表示・・・従前の用法に従わない使用をしたり、居住建物取得者の承諾なく第三者に使用させた場合など、配偶者が義務違反をした場合、居住建物取得者は、その配偶者に意思表示をすることによって、配偶者短期居住権は消滅します。ちなみに、配偶者居住権には、義務違反による配偶者居住権の意思表示には、居住建物取得者から配偶者に、相当期間を定めて是正の勧告を要しますが、配偶者短期居住権にはこの規定がありません。したがって、義務違反をしているとある日突然、居住建物取得者から消滅の意思表示をされてしまうかもしれません。

6.修繕と費用

  • 配偶者居住権を取得して、住んでいる間に建物が老朽化して、修繕が必要になる場合があります。その場合、誰が修繕をし、費用は誰が負担するのでしょうか。原則、住んでいる配偶者が修繕をしなければなりません。そして、通常の必要費は配偶者の負担となります。しかし、特別の必要費又は有益費については、改良の価格の増加が現存する場合には、所有者は配偶者に対し、支出した額又は増加額を支払わなければなりません。

7.配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

配偶者居住権配偶者短期居住権
成立について遺言又は遺産分割の手続きが必要何らの手続きも不要
住み続けられる期間原則は一生最短で相続開始から6か月間
義務違反の際の是正の勧告不要
登記不可

配偶者短期居住権は要件を満たせば、法律により発生する権利です。一方、配偶者居住権は遺言や遺産分割手続が必要になります。

配偶者居住権は存続期間を定めなければ、原則一生住み続けることができます。一方、配偶者短期居住権では、最短で相続開始から6か月間しか、住むことができません。

配偶者短期居住権は登記ができませんので、例えば、居住建物取得者が、第三者にその建物を売却した場合は、原則、配偶者短期居住権をその第三者に対抗できなくなります。

用法義務違反などにより、配偶者に消滅の意思表示をするには、配偶者居住家の場合は、相当期間を定めて是正の勧告が必要になりますが、配偶者短期居住権の場合には、不要です。したがって、ある日突然、配偶短期居住権の消滅の意思表示がされる恐れがあります。

配偶者短期居住権は登記ができませんので、例えば、居住建物取得者が、第三者にその建物を売却した場合は、原則、配偶者短期居住権をその第三者に対抗できなくなります。

8.注意すべきポイント

遺産分割以外の場合には、消滅の申し入れが必要

配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物の帰属先を決めるのが、遺産分割によるか、よらないかで違います。遺産分割の場合には、遺産分割の日から6か月経過した日か、相続開始から6か月経過した日のいずれか遅い日までになりますが、遺贈など遺産分割以外で決められた場合には、居住建物取得者から配偶者に対する配偶者短期居住権の消滅の申し入れの日から6か月経過した日までとなります。したがって、配偶者短期居住権の消滅の申し入れがなければ、いつまでも存続してしまいます。

収益はできません

配偶者居住権と違い、配偶者短期居住権は収益ができません。したがって、居住建物から発生する収益は、居住建物取得者が取得します。一方で居住建物取得者の承諾があれば、第三者に使用させることはできます。これは、配偶者居住権と同じです。

9.まとめ

配偶者短期居住権は、残された配偶者に対するセーフティネットと言えます。少なくとも6か月間は住むことができるとは言え、その間に、転居先及び生活費の確保をしなければなりません。しかも、配偶者短期居住権が必要になるということは、相続人間の争いがある場合がほとんどです。そうならないためには、相続人間の人間関係を良くしておくのはもちろんですが、遺言で居住建物や十分な生活資金の帰属先を、残される配偶者にしておくことが重要です。

金沢の「まるっと相続」では法律税務を含めて全般的な相続サポートを提供しています。お悩みの事項がありましたらお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

司法書士
山田達也(Tatsuya Yamada)
いきいき司法書士事務所所属

昔から、よく道を聞かれたり、知らない子どもに話しかけられたりしていました。

私の風貌が、人よりも少し、話しかけやすいのかも知れません。

相談される方が、何でも話しやすいよう心がけています。お話しをされた方が、すっきりしたお顔になったり、喜んでいただけると私も嬉しいです。お気持ちが楽になったら、専門的なアドバイスをさせていただきます。より専門的なアドバイスができるよう、複数の資格を取得しました。難しい問題の解決はおまかせください。

2005年司法書士登録、2017年マンション管理士登録、2018年行政書士登録、2019年宅建業登録。

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