遺産相続における賃料の取り扱いについて

遺産分割を行うとき、遺産の中に「収益物件」があると慎重に対応しなければなりません。

収益物件からは賃料が発生しますが、賃料の分け方や税制上の取り扱いが複雑だからです。

遺産分割時までの賃料の分け方や相続税の課税される範囲などについて、正しい知識を持って対応しましょう。

今回は遺産相続における賃料の取り扱いについて「まるっと相続」の専門家が解説します。

収益物件を相続された方はぜひ参考にしてみてください。

1.遺産分割における賃料の問題点

まずは遺産分割における賃料の問題点を確認しましょう。

遺産の中に収益物件がある場合、その不動産の相続人を決めるだけではなく「賃料」も分けなければなりません。

遺産分割前の賃料と遺産分割後の賃料とで分け方が異なるので、それぞれみていきます。

1-1.遺産分割前の賃料

遺産分割前に発生する賃料については、各相続人が法定相続分に応じて分割取得する、と理解されています(最高裁平成17年9月8日)。

また各々の相続人は、法定相続分通りに賃料を分配して「確定的に」取得すると考えられています。よって、後に遺産分割協議で不動産の相続人が決まっても、受け取った賃料を不動産の相続人へ返還する必要はありません。

計算の具体例

たとえば、月々20万円の賃料が発生する不動産があり、4人の子どもが相続人になったとしましょう。

この場合、遺産分割協議が成立するまでは4人の子どもが毎月5万円分ずつ賃料を取得します。後に長男が不動産を相続することになったとしても兄弟姉妹は長男へ受け取ってきた賃料を返還する必要はありません。

遺産分割前の賃料管理方法

遺産分割前の賃料は各相続人が分割取得しますが、借主へ「法定相続分に応じて分割して相続人へ賃料を払ってほしい」とはいえないでしょう。

また、被相続人名義の口座は凍結されてしまい、入金ができなくなります。

そこで、賃料入金用の口座を開設するか、既存の口座を専用の入金用口座として用いる必要があります。

たとえば、長男などの名義の口座を作り、借主にはそこに賃料を入金してもらうと良いでしょう。入金された賃料は速やかに分配する必要があります。分配がスムーズにできないとトラブル要因となるので、管理者となった方は不信感を抱かれることのないように誠実に対応しましょう。

1-2.遺産分割後の賃料

遺産分割後の賃料については、不動産を相続した相続人が単独で取得します。

たとえば、長男が不動産を相続したら、その後は長男が賃料を全額受け取ります。

収益物件を相続したら、早めに借主へ遺産分割協議(調停や審判)の結果を連絡して「自分が貸主になった」と伝えましょう。賃料の入金先も新たに伝える必要があります。

賃貸借契約書については作り直さなくても契約は有効ですが、わかりやすくするために作り直しても良いでしょう。

2.相続税制上の問題点

収益物件を相続した場合には、相続税制上の問題も発生します。

賃料も相続税課税の対象になるからです。

「いつまでの分の家賃が相続税の課税対象になるのか」「未収家賃にも相続税がかかるのか」みていきましょう。

2-1.相続税がかかるのは「相続開始時まで」の賃料

収益物件からの賃料で相続税がかかるのは「相続開始時まで」の分です。

相続開始後の賃料には所得税がかかるようになります。

ここで問題になりやすいのは、賃料は「発生した日に払われるわけではない」ことです。前払いや後払いとなっているので、どこまでの分を相続税の課税対象にすれば良いのかわかりづらくなっています。

国税庁の見解によると「死亡した日にその月の家賃の支払期日が到来していない場合、経過した分の賃料を相続税の課税対象にしなくてよい」とされています。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/02/03.htm

たとえば2022年5月10日に被相続人が亡くなり、5月分の家賃は5月31日にまとめて受け取ったとします。この場合、5月10日にまだ支払期日が来ていないので、5月1日から10日までの家賃にも相続税がかかりません。

2-2.未収家賃と相続税

次に、未収家賃と相続税の問題もあります。

未収家賃とは、すでに支払期日が来ているけれども支払われていない家賃のことです。

相続開始時に未収家賃があれば、相続税の課税対象になります。つまり「まだ受け取っていない賃料」がある場合でも相続税がかかってしまうという意味です。

未収家賃の具体例

たとえば2022年5月10日に相続が発生し、その時点で3か月分の賃料が滞納されていたとしましょう。その場合、滞納された3か月分の賃料にも相続税が課税されるので、遺産額に足して相続税を計算しなければなりません。

未収家賃がある場合の対処方法

未収家賃があると、実際には賃料を受け取っていなくても相続税がかかってしまい、相続人にとっては不利益となります。

少しでも不利益を小さくするため、未収家賃をなるべく早めに回収しましょう。

  • 借主へ内容証明郵便で督促する
  • 賃貸借契約の解除通知を送る
  • 支払督促を申し立てる
  • 明渡請求をする

こういった対処方法が考えられます。

3.準確定申告について

被相続人が生前に賃料を収受していた場合、本来なら翌年に本人が確定申告しなければなりません。しかし本人は死亡して確定申告ができないので、相続人が代わりに確定申告する必要があります。この手続きを「準確定申告」といいます。

準確定申告は「相続開始を知った日の翌日から4か月以内」に行う必要があります。遅れないように早めに対応しましょう。

賃料の相続については専門家へご相談ください

遺産の中に収益物件が含まれている場合、相続人同士で分ける方法も複雑ですし、相続税制上の取り扱いについても正しい知識が必要です。賃料を巡って相続人同士でもめてしまうケースも少なくありません。

スムーズに相続を進めるため、税理士や弁護士などの専門家によるサポートを活用しましょう。まるっと相続では各種の専門家が遺産相続の支援を行っていますので、お悩みの際にはお気軽にご相談ください。

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