認知症の相続人がいる場合の対処方法

相続人の中に認知症の人がいる場合、その人を参加させて遺産分割協議をしても無効になってしまう可能性があります。

認知症が進行している相続人には「成年後見人」を選任しなければなりません。

今回は認知症の相続人がいる場合の対処方法をお伝えします。

1.遺産分割協議に参加するには「意思能力」が必要

認知症の相続人がいると、そのままでは遺産分割協議を進められない可能性があります。

遺産分割協議を行うには「意思能力」が必要だからです。

意思能力とは、自分の行う法律行為の意味を弁識できる能力をいいます。およそ6~7歳くらいの子どもの知能があれば意思能力があると考えられています。

認知症が進行して最低限の意思能力すら失われると自分では遺産分割協議ができなくなってしまいます。その場合、「成年後見人」という代理人を選任しなければなりません。

なお、認知症だからといって必ず遺産分割協議ができないわけではありません。認知症の相続人に意思能力があるかどうかは医師の意見なども聞きながら個別に決定する必要があります。

認知症の相続人が含まれる場合でよくあるパターン

配偶者が認知症のケース

父親が死亡して母親と子どもが相続した場合に母親(被相続人の配偶者)が認知症にかかっているケースがよくあります。この場合、母親について成年後見人を選任しなければなりません。

親が認知症のケース

子どもが死亡して親や祖父母が相続する場合、親が認知症にかかっているケースがあります。この場合には、親や祖父母についての成年後見人が必要です。

2.「成年後見人」とは

成年後見人は、自分では意思能力を失って適切に財産管理や監護方法の決定ができなくなった人のため、代わって財産管理や身上監護方法の決定を行う人をいいます。

成年後見人は本人の財産を預かって本人のために管理を行い、法律行為の代理をします。本人が勝手にした法律行為については取消権も認められます。

どこの介護施設に入るかを決定したり介護施設との契約を代行したりキーパーソンとして施設と関わったりもします。

3.成年後見人の選任方法

成年後見人は、以下の方法で選任しましょう。

3-1.申立ができる人

成年後見人選任の申立ができるのは、配偶者や親族などです。より具体的には以下の人に申立権が認められます。

  • 本人(後見開始の審判を受ける人)
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 未成年後見人、未成年後見監督人
  • 保佐人、保佐監督人
  • 補助人、補助監督人
  • 検察官

3-2.家庭裁判所の管轄

申立先の家庭裁判所は「本人の住所地を管轄する家庭裁判所」です。

3-3.必要書類

  • 申立書
  • 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)(発行後3か月以内のもの)
  • 本人の住民票又は戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
  • 成年後見人候補者の住民票又は戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
  • 成年後見人等候補者が法人の場合には商業登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 診断書(発行後3か月以内のもの)
  • 本人情報シート(裁判所に書式があります)
  • 本人の健康状態に関する資料(介護保険認定書や精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳、療育手帳などの写し)
  • 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書(発行後3か月以内のもの)
  • 財産に関する資料
    • 金及び有価証券の残高がわかる書類:預貯金通帳写し、残高証明書など
    • 動産関係書類:不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)など
    • 債がわかる書類:ローン契約書写しなど
  • 本人の収支に関する資料
    • 入に関する資料の写し:年金額決定通知書や給与明細書、確定申告書、家賃や地代の領収書など
    • 出に関する資料の写し:施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料等の決定通知書など

3-4.費用

  • 収入印紙800円
  • 連絡用の郵便切手
  • 登記費用2600円

3-5.手続きの流れ

STEP1 申立人が成年後見開始審判の申立を行う
 
STEP2 裁判所などで申立人との面談
 
STEP3 関係者への意向照会
 
STEP4 必要に応じて本人の状況を確認
 
STEP5 後見開始と後見人の選任
 

4.誰を成年後見人とすべきか

成年後見人には破産者や未成年者でなければ誰でもなれます。

親族から選任してもかまいません。希望する人がいれば、申立の際に「候補者」として立てることも可能です。

ただし、共同相続人から選任すると利害関係が対立して遺産分割協議を進められないので、相続人以外の人から候補者を選ぶ必要があります。弁護士や司法書士などの専門家を候補者に立ててもかまいません。

親族間に争いのある事案や難しい対応が必要な事案などでは、裁判所の判断で弁護士や司法書士から成年後見人が選任されるケースが多数です。

5.成年後見人を選任する際の注意点

5-1.遺産分割協議が終わっても財産管理が終わらない

いったん成年後見人を選任すると、遺産分割協議が終わっても財産管理業務は終わりません。

ご本人が死亡するか意思能力を回復するまで、成年後見人としての業務を継続する必要があります。定期的に裁判所へ財産や収支の状況を報告しなければならないので、親族が後見人となると負担がかかる可能性もあります。

5-2.報酬が発生する可能性がある

弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人として選任されると、報酬が発生します。

標準的に月額にすると2~5万円程度となるケースが多数です。

ご本人の財産から支払われるので、申立人自身や親族などが支払う必要はありません。

ただ、ご本人の資産が目減りしていくことには注意すべきといえるでしょう。

6.遺言書があれば成年後見人は不要

被相続人が生前に遺言書を作成し、すべての遺産分割方法を指定しておけば、成年後見人を選任する必要がありません。遺産分割協議を行う必要がないからです。

認知症の方が元気なうちに任意後見契約を締結していた場合にも、任意後見人が遺産分割協議に参加するので成年後見人は不要です。

金沢の「まるっと相続」では法律税務を含めて全般的な相続サポートを提供しています。お悩みの事項がありましたらお気軽にご相談ください。

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