親族内事業承継について
事業承継のうち、現経営者が自分の子どもや孫、甥や姪といった親族に会社を引き継ぐことを親族内事業承継といいます。
事業承継には、親族内事業承継以外にも、役員・従業員承継、社外の第三者へ承継させる場合がありますが、中小企業で多いのは、この親族内事業承継になります。
今回は、親族内事業承継の場合に注意すべき点について、解説します。
1.ガバナンス対策
まずは、会社のガバナンスに関する問題です。
会社の事業を引き継がせ、将来にわたって、会社を存続、発展させるためには、会社の支配を安定させることが重要です。
そのような観点からすると、後継者に対しては、株主総会で重要な事項を決議するために必要となる、議決権(株式)の3分の2以上(できれば、100%)を後継者に取得させることが望ましいです。
また、株式の問題だけではなく、現状、会社の名義ではない事業用資産についても、会社や後継者にもれなく取得させるように整理しておく必要があります。
さらに、経理業務や労務管理のノウハウなども、しっかりと後継者に引き継ぐ必要があります。
2.株価対策
次に、株価の問題です。
株式を承継するには、生前贈与、有償譲渡、相続などによる方法が考えられます。贈与には贈与税が、相続には相続税が生じ、有償譲渡の場合は株式の購入資金が必要になりますが、それらの額には、株価が大きく影響します。株価が高い場合は、税金などの負担が大きくなりますので、一定の株価対策を行っておく必要がある場合があります。
主な株価対策としては、現経営者に、退職慰労金を支給する方法が考えられます。
3.税金対策
次に、税金の問題です。
既に説明したように、株式を承継するには、生前贈与、有償譲渡、相続などによる方法があり、贈与には贈与税が、相続には相続税が生じます。
このうち贈与については、暦年贈与と、相続時精算課税制度を利用した贈与が考えられます。
暦年贈与は、毎年こつこつ贈与していく方法です。
基礎控除額である110万円の範囲内であれば、贈与税は生じません。対象となる株式全体を承継するまでに、一定の期間が必要になる場合がありますが、相当な節税効果があります。
ただし、改正により、相続などによって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前の一定期間中に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算されるのですが、その加算期間が3年から7年に変更されることになりますので、この点は注意が必要です。
一方で、相続時精算課税制度は、まとめて贈与する方法です。
60歳以上の親(祖父母)から18歳以上の子(孫)への贈与であれば、2500万円までは相続時まで納税が猶予されます。改正により、届出後、110万円以下の贈与財産は持ち戻されないことになり、この部分は贈与税の申告も不要となります。ただし、小規模宅地の特例が使えなくなるといったデメリットがあります。
4.遺留分対策
最後に、遺留分の問題です。
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことです。
株式を後継者に承継するにあたって、後継者以外の相続人の遺留分にも留意する必要があります。
対策としては、後継者に取得させる株式の価格を概算し、その額に見合う相続財産を後継者以外の相続人のために遺しておくことが基本となります。
また、遺留分権利者となる相続人の協力が得られれば、遺留分の放棄(家庭裁判所での許可が必要です。)や遺留分に関する「民法の特例」を利用し(経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要になりますが、遺留分権利者全員の合意さえあれば、後継者自身で手続きを進められるという利点があります。)、遺留分侵害の問題を回避する方法もあります。
5.まとめ
事業承継は、ケースによって、扱うべき問題が多岐にわたります。いずれにしても、早めの取り組みが重要になります。
親族内事業承継を検討している方やその方法について疑問点がある方は、金沢の「まるっと相続」まで、お気軽にご相談ください。