未成年の相続人がいる場合の対処方法
相続人の中に未成年者が含まれている場合、そのままでは遺産分割協議を進められない可能性があります。未成年者と親権者の両方が相続人になる場合には「特別代理人」を選任しなければなりません。
今回は未成年の相続人がいて遺産分割協議ができないケースやその場合の対処方法を「まるっと弁護士」がお伝えします。
親と子どもが一緒に相続人になった場合などにはぜひ参考にしてみてください。
1.未成年の相続人がいると遺産分割協議ができない理由
相続人の中に未成年の子どもが含まれている場合、なぜ遺産分割協議を進められないのでしょうか?
それは、未成年者とその親権者の利害が対立するからです。
未成年者は判断能力が不十分なので、単独では遺産分割協議を進められません。親権者などの代理人が代わりに遺産分割協議に参加する必要があります。
ところが未成年者と親が両方とも相続人になる場合、親と未成年者の利害が対立してしまいます。親にしてみると、未成年者の遺産取得分を減らした方が、自分にとっての利益になるからです。
利害が対立した状態では、公正な遺産分割協議を期待できません。このように利害が対立する状態を「利益相反」といいます。
利益相反する場合、未成年者の親は未成年者の代わりに遺産分割協議ができません。
親が自分の分と未成年者の両方の分の署名押印をしても、遺産分割協議書は原則として無効になってしまいます。相続登記や預貯金の払い戻しも受け付けてもらえないので注意しましょう。
法律上の未成年は17歳まで
先日まで、法律上の未成年者は19歳までの人でした。子どもが20歳にならないと自分で遺産分割協議ができなかったのです。
ただし、今は法改正により成人年齢が引き下げられています。18歳で成人するので、未成年となるのは17歳までです。子どもが18歳になったら単独で遺産分割協議に参加できるので、利益相反の問題は発生しません。
2.未成年の相続人がいて遺産分割協議できないケースとできるケース
相続人の中に未成年者が含まれていても、遺産分割協議できないとは限りません。
利益相反が起こるのは「親権者と未成年者の両方が相続人になるケース」に限られるからです。
以下では未成年の相続人がいて遺産分割協議ができないケースとできるケースの典型例をみてみましょう。
2-1.未成年の相続人がいて遺産分割協議できないケース
- 父親が死亡して、配偶者である母親と子ども(17歳以下)が相続人になるケース
この場合、母親は子どもの代理人として遺産分割協議を進められません。
2-2.未成年の相続人がいても遺産分割協議できるケース
- 父母が離婚しており、父親が死亡したケース。子どもの親権者は母親
この場合、母親は父親の相続人ではなく、子どもの法定代理人としての立場しかありません。
自分が相続人にならず利害が対立しないので、遺産分割協議に参加できます。
- 未成年に未成年後見人(相続人ではない)がついているケース
未成年者に親権者がおらず「未成年後見人」がついており、未成年後見人が相続人でなければ利害の対立が発生しません。未成年後見人は特別な手続きをしなくても遺産分割協議に参加できます。
3.特別代理人を選任する
未成年者と親権者の両方が相続人となってそのままでは遺産分割協議を進められない場合、家庭裁判所で「特別代理人」を選任しなければなりません。
特別代理人とは、利益相反が起こって遺産分割協議などの法律行為ができないときに代わりに法律行為を行う代理人です。
特別代理人が選任されれば、未成年者の代理人として遺産分割協議を進められます。
未成年者が複数いたら複数の特別代理人が必要
相続人の中に複数の未成年者が含まれていたら、人数分の特別代理人が必要です。
まとめて1人の特別代理人が対応すると、子どもたち相互の間で利益相反が起こってしまうからです。
4.特別代理人の選任方法
特別代理人を選任するための具体的な方法をみてみましょう。
4-1.申立ができる人
- 親権者
- 利害関係人
4-2.申立先の家庭裁判所
申立先の家庭裁判所は「未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
4-3.必要書類
- 特別代理人選任申立書
- 未成年の相続人の戸籍謄本
- 親権者の戸籍謄本(未成年の相続人と同じ場合には省略できます)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 遺産分割協議書の案
- 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を示す資料
4-4.費用
- 子ども1人について収入印紙800円
- 連絡用の郵便切手
申立てをすると裁判所で審理が行われ、問題がなければ特別代理人が選任されます。
5.誰が特別代理人になれるのか
特別代理人になるには、特別な資格は要りませんが、特別代理人は、未成年者の利益を保護するために選ばれるものですので、特別代理人としての職務を適切に行えることが必要です。通常、未成年者との関係や利害関係の有無などを考慮して、適格性が判断されます。
相続に関係のない親族を選任しても良いですし、弁護士や司法書士などの専門家に依頼して候補者とすることも可能です。
6.特別代理人を選任する場合の遺産分割協議書案の作成方法、注意点
特別代理人の選任を申し立てる際には、遺産分割協議書案を添付しなければなりません。
遺産分割協議書案は、未成年者の権利を守るため、未成年者の法定相続分は最低限確保される内容で作成すべきです。
ただし、配偶者が子どもの養育のために多めの遺産取得を必要とするなど合理的な理由がある場合には、必ずしも法定相続分に従う必要はありません。
ケースバイケースの対応をすべきなので、遺産分割協議書案を作成するときに迷ったら弁護士へ相談しましょう。
金沢の「まるっと相続」では法律や税務、相続登記など全般的に遺産相続のサポートをしています。お悩みの事項がありましたらお気軽にお問い合わせください。