遺産分割協議をやり直せるケースについて
いったん遺産分割協議を成立させたら、原則としてやり直しはできません。
ただし、一定の条件を満たせばやり直せる可能性もあります。
今回は、遺産分割協議をやり直せるケースや方法について解説します。
1.遺産分割協議は原則としてやり直しができない
遺産分割協議が成立すると、一部の当事者の考えだけでやり直させることはできません。
全員が合意して協議を成立させた結果、遺産相続時に巻き戻って効力が発生しているからです。
後から「やっぱり○○しておけばよかった」と思ってもどうにもできないのが原則なので、遺産分割協議を成立させるときには「本当にこの内容で良いのか」慎重に判断しましょう。
2.遺産分割協議をやり直せるケース
ただし、以下のような場合には遺産分割協議をやり直せます。
- 全員が合意した場合
- 錯誤や詐欺、脅迫があった場合
- 公序良俗に反する場合
- 権限のない人が参加している場合
- 相続人が不足している場合
具体的にみていきましょう。
3.全員が合意した場合
いったん遺産分割協議を成立させても、相続人全員が合意すればやり直しが可能です。
この場合のやり直しを「再協議」といいます。
再協議をするには、他の相続人全員を説得してやり直しに合意させなければなりません。
1人でも反対するとやり直しはできないので、再協議を希望するなら粘り強く説得しましょう。
4.錯誤や詐欺、脅迫があった場合
遺産分割協議の際、錯誤や詐欺、強迫などの問題があった場合にもやり直しが可能です。
これらの場合、遺産分割協議を成立させるのに必要な「意思表示」に問題があるからです。
- 錯誤…重大な勘違いをしていること
- 詐欺…騙されたこと
- 強迫…脅されて無理やり遺産分割協議に同意させられた場合
これらの問題がある場合、勘違いしていた人や騙された人、脅された人は「取り消し」ができます。ただし、取消権には追認をすることができる時から5年で時効によって消滅します。時効期間が過ぎると意思表示に問題があっても取り消せなくなるので、錯誤や詐欺などが明らかになったら、早めに対応しましょう。
5.公序良俗に反する場合
遺産分割協議の内容が「公序良俗」に反する場合には、遺産分割協議が無効になります。
たとえば、不法行為を条件としている場合などです。
ただし、こういったケースは多くはないでしょう。
6.権限のない人が参加している場合
遺産分割協議に権限のない人が参加して勝手に署名押印した場合には、遺産分割協議が無効になります。
たとえば、以下のような場合です。
- 認知症が進行して本人に意思能力がなくなっているのに本人が遺産分割協議書に署名押印した
- 未成年者と親権者の利害が対立するのに親権者が自分の分と未成年者の分の両方の署名押印をした
- まったく無関係な第三者が勝手に代理人として遺産分割協議書に署名押印した
上記のような場合、遺産分割協議は無効なのでやり直しができる可能性があります。
7.相続人が不足している場合
遺産分割協議には、相続人が全員参加しなければなりません。1人でも欠けると無効になります。
たとえば、連絡がとりづらい相続人を外して協議を成立させた場合、相続人調査に漏れがあって必要な人を参加させなかった場合などには遺産分割協議が無効になる可能性があります。
8.債務不履行があっても解除はできない
遺産分割協議を成立させても、一部の相続人が合意した事項を守らないケースがあります。
そんなときには遺産分割協議を解除できるのでしょうか?
このように「相手が約束を守らないために行う解除」を「債務不履行解除」といいます。
判例上、遺産分割協議については債務不履行解除ができないと考えられています。
遺産分割協議に債務不履行解除を認めると、法的な安定性が大きく崩れて混乱が生じてしまうからです。
「相手が約束を守らない」ことは遺産分割協議をやり直す理由になりません。
相手が合意内容を守らないときの対処方法
では、遺産分割協議で約束した内容を守ってくれないときにはどうすれば良いのでしょうか?
この場合、基本的には「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てることが考えられます。調停では調停委員が相手に合意内容を守るよう説得してくれるでしょう。相手が納得すれば解決できます。
遺産分割後の紛争調整調停が不成立になったら、地方裁判所などで訴訟を起こさねばなりません。訴訟で判決が出たら、通常相手は従うでしょう。判決も無視される場合、相手の財産の差し押さえや取り立てができます。
まとめ
遺産分割協議のやり直しができるケースは多くはありません。
基本的には全員がやり直しに合意して再協議を行う必要があります。
錯誤や詐欺、強迫などの問題があれば、例外的に取り消しができる可能性もあります。
特定の相続人が遺産分割協議の内容を守らないときには、やり直しではなく履行を求める必要があります。
自分だけではどういった対処が必要か、適切な判断が難しいでしょう。遺産分割協議をやり直したいときには弁護士によるアドバイスを受けるのが得策です。弁護士に取消権行使や再協議の依頼をすることもできます。
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